エフォートの先物市場
この時期になると大学教員は科研費の申請作業で瞬間最大風速的に急に忙しくなる。国立大学の運営金、私立大学の予算のいずれも減少傾向にある最近の状況では、競争的研究費である「科研費」取得を目指して、どの教員も大学から「申請しないと駄目」といわれる。
ところが、科研費は業績のある人に配分が多くなり、たくさん配分を受けた人がたくさん論文を書き、更にたくさんの科研費を受けるという集中型スパイラルの構造があった。それを改めようと導入されたのが「エフォート」という数値だ。これは、1年間の自分の勤務時間のうち、何パーセントをこの研究に当てるつもりか、ということを表す数値である。1年間を約50週と考えれば、1パーセント=2.5日〜3日である。2泊3日の出張1回が1パーセントといってもよい。そして、自分が関わっている(予算を受けている)研究のすべてについて、エフォートの数値の自己申告を添付する必要がある。当然だが、一人で100パーセントを越えることはできない。いや、授業や学生指導、大学運営協力などの時間を考えると、科研費での研究の合計が30%を越えることも、ほとんどあり得ない。
余談だが、エフォートというのを「努力の度合を表す数値」と勘違いして「100%」や「150%」などと書いたり、「研究組織全体での自分の寄与度」と勘違いして「3人でやる研究だから33%」と書いたりして大学の担当科の職員に突っ返されたという事例があったのだが、笑い事ではない。導入当初は、ちゃんと説明されないと何だかわからないのは当然である。
さて、もし研究代表者Aが、「この研究において分担者Bのエフォートは6パーセント」と書いたとしよう。一方、Bは「Aが代表としている研究へのエフォートは2%とする」と書いて申請したとする。これは、Aは「Bが3週間くらいはまるまるこの仕事をしてくれる」ということを期待しているのに、Bは「1週間くらいでいいや」と考えているということになる。本当はこれでは困る。しかし現状では、この数値がずれることは大いにある。なぜなら「申請しても採択されない科研費がたくさんある」からだ。だから、エフォートの数値は、採択決定後に書き直してもいいことになっている。不合理だなぁ。
しかし、研究を依頼したい代表者が設定するエフォートと、研究を依頼された分担者が設定するエフォートに大きな開きが存在してしまうと、今後は何か問題になるような気がする。例えばこんなことが起こりそうだ。
・採択決定後にエフォートを変更することは許されない。
・エフォートは分担を引き受けようとするものが組織長に許可を得た数値を書く。
・今まで、優秀な研究者は研究分担者となり論文業績を提供することで採択率を上げてきた。今後はエフォートも提供する数値になり得る。
まるで先物市場のようだ。ううん、いいのかな。いいんだろうな、みんないいっていうんだろうな、きっと。
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