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2005年11月27日 (日)

教科『情報』の入試

大学入試が近付いてきたせいもあり、教科『情報』関係でも入試に関する議論が、また、いくつかの blog で出てきている。これについて、少し議論を整理してみたい。

まず、教科『情報』の入試といっても、大きく分けると2種類存在する。とりあえず、

(A)大学名、学部名、学科名などに『情報』が含まれる組織の試験
(B)センター試験などの、多くの人を対象とした試験
と二つに分けておこう。

(A)の方は「実施すべきである」という以外の結論はないように思う。それは、上記の『情報』を『音楽』や『体育』や『数学』や『物理』などの高等学校の各科目名に読み変えてみると、状況は明らかだ。「『化学』の試験を行なわない化学科」なんて、健康診断をせずにフィットネスクラブに入会させるようなもの。無責任。

各組織は「自分達なりの『情報』」の定義をしていると思うが、その定義に合わせた入試問題くらい作っておくべきだし、それを作れない組織なんて能力がなさ過ぎる…といえよう。

ただし、「学科では作りたいが学部が許してくれない」「学部では作りたいが大学が許してくれない」という状況もあるので一概に批判できるものではないことは承知している。

一方、(B)の方は、簡単に結論を出せるものではない。既存のセンター試験必修教科・科目と比較し、教科・科目の性質について議論をしておく必要があると思う。例えば、「センター試験では『英語』は「ほぼ必修」になっているが、それはなぜなのか。」を考えてみよう。

大学の授業としての英語はさておき、その分野の専門にでは英語をほとんど必要としない学部や学科もあるだろう。それでもセンター試験で英語を必要とさせるのは「英語を学んでおくことは、今後の国際的な活躍に必要になるかもしれないから」であるといえよう。

では、国立大学などの入試で「理系もセンターの『国語』は必須」「文系もセンターの『数学』は必須」という状況はどうだろうか。これらの教科・科目を入試のために勉強しても、その学生がこの内容を大学で必要とすることはない…と信じられている。にも関わらず入試で課しているのは「大学人としての基礎的教養」だからなのだろうと思う。

そこでいよいよ、「情報」の話を考えてみたい。「情報活用の実践力」「情報の科学的な理解」「情報社会に参画する態度」は、大学教育において不要な能力だろうか?それとも「あまねく必要な能力」なのだろうか?さらに「当たり前過ぎて問うべき内容ですらない」のだろうか?ということである。

「情報」を、国語や数学に相当する「大学人としての一般教養」的な性格を持つ教科・科目として捉えるべきなのか、あるいは英語に相当する「社会人としていずれ必要になるかも知れない重要な能力」として捉えるべきなのか、そのいずれでもないものとして捉えるべきなのだろうか…。

高等学校の先生方の意見をみると、「実技科目は入試に合わない」「入試に出ると、入試問題対策に矮小化する」という「お決まりの反論」が多い。そして、それは我々大学教員も同じ事を危惧していて、それを乗り越えられるように質が高い問題を大学入試センターが作ってくれることを祈るしかないともいえる。

他に細かいことは、こちら↓にも書きましたので、御一読下さると助かります。

日本文教出版「ICT・Education」 No. 27

 教科「情報」の大学入試への導入の現状と展望
 http://www.nichibun.net/case/ict/27/01.php

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コメント

辰己先生、初めまして、津久井と申します。

私のブログ記事へのトラックバックありがとうございました。
こちらからもトラックバックさせて頂きます。

先生の分類でいう(A)大学名、学部名、学科名などに『情報』が含まれる組織の試験の方は私も実施すべきであるという考えで同じです。入試の間口が広がることに大歓迎です。

多くの情報科教員が迷っているのは、この点もひとつの理由としてあるのではないかと思います。

先の私の投稿で「各大学が行う『情報科の入学試験』に関しては別の機会に述べたいと思います。」と書いたのは、まさにこれをセンター試験とは分けて考えなければならないと思ったからです。

投稿: 津久井 大 | 2005年11月27日 (日) 20:45

津久井先生

どうもコメントありがとうございます。先生のblogの「別の機会」とは、私の(A)のことだろうと思い、先回りをして書いてみました。

(A)の方にしても、医学部や経済・経営・法あるいはフランス語、ドイツ語、中国語、建築、土木…のように対応する内容が高校では教科として成立していないものだけでなく、高校に対応する教科・科目があるにも関わらず入試で問われていない政治、倫理、保健、福祉という教科・科目もあります。この辺の話などは、リンクを付けた日本文教出版の雑誌への投稿でいくつか言及致しております。

津久井先生もご存知かも知れませんが、「情報入試をやるべきでない」「情報入試をやるべきである」という一面的な結論が、一部にあるようです。また、「保健学科は保健を入試にしていないのだから、情報学科が入試にする必要はない」という意見もあるようです。しかし、数学科は数学を入試にしているのですから、単に「ある他教科」との比較だけで議論をしても議論にはなりにくいと思います。

また、「実施する試みすら否定しよう」という動きもあります。しかし、現状では「実施していない」のですから、実施してみる試みは意味があります。(同じように、やめたことがないことをやめてみる試みにも価値があると思います。)東京農工大で試行試験を重ねてきたのは、そういう関係者の努力でした。

それから、入試問題として矮小なものを出題したり、あるいは、才能を持つ生徒でも他の教科・科目で受験するよりも有利にならないものを出題するようでは駄目です。そんな入試ならやらない方がマシです。(B)の意味での入試が成功するには、各大学での出題よりも、経験をつんだ教員が集まって、いわば「ドリームチーム」を作って大学入試センターで出題するのがよいと思います。

東京農工大の教員としてではなく、ひとりの研究者として発言するなら、教科「情報」で成績が良い生徒さんと、そのような生徒さんを育てている高校の先生方の努力が実を結ぶような「教科『情報』の入試」が、(A)のカテゴリに属する多くの大学・学部・学科で実施されることを望みます。

投稿: たつみ | 2005年11月28日 (月) 22:03

辰己先生、こんばんは。

津久井です。

先生の分類された(A)大学名、学部名、学科名などに『情報』が含まれる組織の試験に関して、少し考えてみました。

こちらの方は先生と同じで賛成です。
トラックバックさせて頂きましたので私のブログをご覧下さい。

投稿: 津久井 大 | 2005年11月30日 (水) 23:43

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