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2006年12月14日 (木)

Winnyに見る情報危機管理

昨日(2006年12月13日)、Winnyの作者を被告とした裁判の判決があった。判決の内容、それに対する被告のコメント、事件の背景などについては、他人のblog、報道などにまかせることにしたい。

Winnyに関する問題(話題)は大きく2つあったと思う。一つは著作権侵害幇助の問題、もう一つはP2Pシステムによる個人情報漏洩の問題である。しかし、Winnyが一般の人に向けて話題になったのは、もっぱら後者のP2Pシステムに関する個人情報漏洩問題であった。具体的には、P2Pに参加しているパソコンがウイルスに感染することで、P2P網に流すつもりがなかったファイルまでもがP2P網に流出していった。特に個人情報漏洩に関しては報道も熱心であった。各企業や団体などの個人情報や機密情報が大量に漏洩したのは、Winnyのもつファイル到達性の良さ故の出来事であったといってもよい。

このようなことが報道されたおかげで、多くの人にWinnyという名前と個人情報漏洩を結びつけるようになった。ところが、報道はわかり易さを優先するあまり、Winnyがどのような仕組みで動いているのか、同じような仕組みで動いているソフトにはどのようなものがあるのか、個人情報漏洩以外にどのような被害(例えば著作物の大規模複製)があったのかなどの報道が軽視されてきた。

昔、P2P的なシステムには、UUCPによるメール配送、NNTPによるネットニュース配送があった。現在も、インターネットを使った電話アプリケーションである SkyPe が P2P を利用している。これらのアプリケーションが提供するサービスは、インターネットを広く利用することが目的であって、その一つの実現手法としてP2Pが用いられてきたのである。Winnyについても同じであって、決して Winny そのものが違法ということはない。

一方、あまりにもよく切れる小型ナイフを作って、外科医や食肉業者以外の人に販売すれば、それが犯罪に使われることは当然に想像できることであって、そのような高性能な製品を一般に販売するべきではないという倫理的な要請も理解はできる。

被告は、裁判の後の記者会見で「判決内容は技術の発展を阻害する」として抗議をし、控訴の意志を明らかにしたが、改めて考えてみると、よく切れるナイフも、すぐに致死量に達する毒薬も、時速400kmで走ることができる自動車も、それ自体が開発を禁止されているということはなく、自由に開発を行なうことができる。(化学兵器やヒトゲノムなどの一部の例外を除いて)プロフェッショナルが利用するものを開発することを差し止める法律は存在しない。P2Pも、それを利用するプロフェッショナルのために開発・利用されるという枠を設けるのならば、技術開発を差し止める必要はないはずである。

Winnyは、プロフェッショナルが利用する技術を、利用マナーを十分に備えていない一般人に提供したという点が、技術利用という観点での最大の問題(=トラブルの元)だったのだろう。だから、十分に訓練を受けない利用者がWinnyを利用することで、著作権侵害を幇助したり、企業の機密情報を流出させてしまったりしたのである。(SHNSKさんのコメントにあるように、判決では「この状態を放置したことが、『幇助』に該当するとしている。)

ただ、こういう意見を書くと間もなく、あたかも自分が世界で初めて発明したかのような顔をして「Winny免許制」ということを提案する人が出てくるだろう。先週の「ネット社会の、これから」でも、一般の人ということで会場にいた人が「ネットワーク免許制」について提案していたが、それはもう、10年も20年も前から検討されては実現できないということで現実にならなかった。Winny免許制もまた同じ。

これらの議論を、僕が普段から言い触らしている「情報危機管理論」の「5側面」でとらえ直すと、話の様子が見えてくるかも知れない。すなわち、危機の側面を、1. 技術、2. 予算(コスト)、3. 制度、4. 教育、5. 法(規則)の5つに分類して対策を考えるという手法である。例えば、Winnyには独特の匿名化手法を採用しているので、Winnyの使用を禁止したい人にとっては、1. 技術的な対応は(事実上)不可能。現在行なわれている裁判などの立法による対応は、学校や職場などの 5. 法(ルール)による対応である。残りのうち 3. 制度に該当するのが先ほど述べた「免許制」であり、2. 予算に該当するのが、著作物や個人情報などを違法に流したものに対する損害賠償請求とあなる。4. 教育に該当するのは、今回は報道であり、これが社会教育の機能を(偏りつつも)果たした。

てなことで、危機管理入門みたいな話になりましたが、裁判は高裁に行くそうですので、その結果を気にしていきたいと思います。確定判決になってないことについては、あまりうだうだ言いたくないですし。


【追記】畏友である白田秀彰氏による解説が ITmedia に掲載されているのを発見した。 アンカーを作っておきます。

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コメント

今朝新聞で概要を読んだだけですが,最終的に有罪にした理由の一つとして:
 「犯罪等を助長することが判明した後も公開を続けた」
といったことがあるようです.

判決自体にまだ納得したわけではないですが,この理屈自体は通っている気がします.

投稿: SHNSK | 2006年12月14日 (木) 12:45

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