先日、最近の日本の若者が海外旅行に行かなくなった原因が、PCとネットで「旅行気分」になったからであるという、なんやらオカシナな報告がでました。これ対して、「ネットで猛反発」という記事も出てきました。僕自身も、最初の「ネットで旅行気分になったから」とう意見には、「そりゃうそでしょ」と直感しました。旅行業界が自分らの無策を棚にあげてネットのせいにすればいいってもんじゃないでしょ。ただ、旅行業界の意見も、反発したネットワーカーの意見も、もうすこし掘り下げて考えるべきだという気がしています。
世界的にも希有とさえいえるほどに日本では休日・祝日が多いのも、ハッピーマンデーが現実になったのも、土曜日に学校がお休みなのも、旅行業界の業界をあげての陳情活動があったのではないでしょうか?にもかかわらず若者が海外に行かない、さらに、実は国内旅行すらしなくなりつつある原因の一つは、実は、旅行そのものに魅力がないからでしょう。決して「PCとネットで旅行気分になった」のではありません。
それから、旅行業界自体がPC・ネットから不可分な業界になってしまったことの分析も甘いと思いました。
昔は、大手の旅行会社が募集したものは、多少高い旅行費用でも安全・安心という文化がありました。そして、旅行相談は旅行企画・手配会社に頼めばOKでした。旅行会社に手配してもらっていた時代は、客は口頭で、あるいは書面でチケット手配を頼めばよく、もし、旅行会社の社員が万一機械の操作ミスをして誤ったチケットをとってしまったとしても、そのときに発生する費用は旅行会社が負担し、客に負担しなくても済んだのです。また、客は、よくわからない言語でのチケット手配をする必要もなかったのです。
それが、PC・ネットの普及にともない、利用者はリスクを自分で引き受ける代わりに、より安いチケット、安いホテルを自ら探すようになりまた。普段は見ることもない文字や単語が表示されたwebサイトと格闘し、手配ミスのときの解約手数料を払うリスクの覚悟をしてでも、自分で動くようになりました。もちろん、リスクを引き受けた以上はトラブルも甘受せざるを得ないのですが、そこでトラブルを回避するための情報もまた、PC・ネットを利用して得られるようになっています。さらに、同じ内容なら安く手配する方法などもPC・ネットを利用して調査することができるようになりました。例えば、価格比較サイトをみている客のほぼ全員が、(同じ信用度の会社同士なら)1円でも安いところに注文します。
つまり、旅行業界が儲かっていた「古き良き時代」は、客のリスクを引き受けることが原動力だったのでしょうと言えます。それがPC・ネットのおかげでリスクと利益の引き受け手が「情報をもった賢い客」に移動していったとも言えます。ただ、話は簡単でない側面があります。確かに賢い客は1円でも安いところに移っていきますが、多くの人にとっては旅行自体が非日常の行動です。つまり、1円でも安い業者を探すために必要な時間と、それで得られる利益とが釣り合うか釣り合わないかも重要な問題です。毎日のように忙しく仕事をして、年に1回行くか行かないかの遠距離旅行しかしない人にとっては、サイトを見ている時間や、PCを使って調べている時間が無駄。マイレージだって関係ない。となると、旅行業界のみなさんは、こういう人を主な顧客にしないとだめなんだろうと思います。若者は時間があり、若者はもともと財布のヒモが堅く、そして、若者は情報(PC・ネット)を使いこなすのですから、旅行業界のエライ人が考えるようにお金を落してはくれませんゼ。
さて、こんどは若者側に話を変えてみます。
なぜ旅行に行かないのか?という原因はいろいろありますが、やっぱり大きいのは「旅行に行く暇がない」「旅行に行く金がない」「旅行そのものに興味がない」の3つでしょう。暇がない人は2つにわかれていて、仕事の調子が良過ぎて暇がない人と、生活費を稼ぐために一生懸命で暇がない人で、後者は2番目の理由も付随します。整理しなおすと、
- 1. お金はあるけど暇がない
- 2. お金もないし、暇もない
- 3. 暇はあるけど(お金の有無に関わらず)興味がない
に分類できそうです。ここで 1. に分類される人向けには旅行業界が暇を作ってもらえるほどに魅力的な商品を作ればいいだけです。2. に分類される人は、仮に貯金を貯めて旅行に出たとしても、旅行業界が満足するようなお金の使い方をしないので、旅行業界の人は儲けの対象に考えず、将来のことも考えて、格安のエコノミー座席・安いホテルをちゃんと供給すべきです。一方、3. に分類される人のことは、真剣に考える必要があると思います。もし旅行業界のみなさんが、3. に該当する人にもっと旅行をして欲しいのならば「旅行よりも楽しいことがある」「旅行はは面倒」という意識を変える活動をする必要があります。
そして、話は冒頭に戻ります。若者の教育機会をドンドン奪って、お金を使う家族旅行を奨励してきた旅行業界は、実は、そういう若者のしっぺ返しを受けたということだと推測しています。語学/自然/歴史について学び、疑問をもち、そして大学生になって時間ができて旅に出る教育を経由するという流れを邪魔することに、旅行業界も加担した結果だと感じています。因果応報。
そういえば先日、「日本より明らかに物価が安い発展途上国で部屋を借りて、働かずに、遊びもせずに暮らす若者が増えている」というニュースを見ました。その若者たちは、お金がなくなると帰国し実家に住み、アルバイトや派遣で2〜3ヶ月仕事をして、ン十万の貯金を得たらまた出国して海外で暮らす。その程度のお金でも、国を選ばなければ1年くらい暮らせる。そして貯金がなくなったらまた帰国してアルバイト…なんだそうです。滞在国では仕事も遊びもなにもせずに部屋にひきこもり、寝て、インスタント麺を食べ、テレビをちょっとみるだけだとのこと。
そういう人生の選択をした人を批判することは簡単ですが、なぜ、そういう生活が成り立ってしまうのか、それでいいと本人が考えているのかを改めて考え直すと、一概に批判することもできません。1年間のほとんどを働かずに生活できるのですから楽なもんです。そういう人達に「人生」や「命の大切さ」を解いても、「そんな宗教的な/道徳的な話題はイヤ」という反応が返ってくるに違いないでしょう。(僕は個人的にはもう少し「円」が強い通貨になっていいとは思いますが、そうなればなるほど、上に述べたパターンの生活が楽にできるようになります。むむっ。)
社会全体の幸福も重要だけど、個人の幸福も重要で、これらが対立したときは、多くの人は個人の幸福を優先します。日本の少子化なんてのは、そういう判断が積み上がった結果だと思います。
なんだかうまくまとまらなくなりました。ここでは「ほんとうの旅に出よう」という言葉で締めたいと思います。それは、旅行業界のためでもなく、一人個人の幸福のためだけでもなく、見聞を広めるための旅行。お金をかけなくてもできる旅行もあるでしょうし、かけないとできない旅行もあるでしょうが、毎日同じ生活に変化を起こさないと、おもしろくない。それに、変化をおもしろいと思ってくれる人がもっと増えるといいなって思ったりもしています。
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