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2008年8月10日 (日)

真実を伝える番組制作の難しさと重要さ

世間では夏休みですが、採点の残り(9月1日報告締切)と原稿執筆で追われています。とはいいつつも、息抜きと勉学を兼ねて、昨年秋(2007年10月22日)に録画したNHK スペシャル「100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者 失踪の謎」を、今頃になって漸く見ました。

以下では、番組の内容に言及するので、まだ見てないけど見る予定がある人は読まないでください。


番組名を読むと「3次元ポアンカレ予想を解決したグリゴリー・ペレルマンが失踪した理由」が解明されそうですが、残念ながら、それは含まれていませんでした。この番組の題名を信じて見ていた僕は、ひどく騙された気分です。NHKの中には、番組の題名が番組の内容を適切に表しているかどうかをチェックする人はいるのでしょうか?

さて、60分もの長い時間をかけて説明されていた内容は、「フィールズ賞ってすごい賞」「ポアンカレ予想を素人でもわかった気分になれるように配慮した説明」「高次元ポアンカレ予想の解決のアイディア」「ペレルマンが位相幾何学ではなく物理と微分幾何学を使ってといた」「ペレルマンは、いまは高校時代の恩師からの面会を拒絶するほど人が変わってしまった」という話でした。数学の前提知識をもたない人に数学の内容を説明する部分のうまさはさすがだと思いました。

でも、あの番組を鵜呑みにした一般視聴者は「位相幾何学は20世紀の新しいキラキラした数学で、微分幾何学は古くさい数学だったが、その古くさい微分幾何を使った方法でポアンカレ予想が解決された。位相幾何学ザマアミロ。」って思ったのではないでしょうか?たしかに、数学の分野には流行る問題、流行らない問題がありますが、未解決問題を解くことだけが数学ではなく、位相幾何学もさまざまな成果を上げてきているわけです。実際そういうことも20秒ほどは説明されていましたが、一般視聴者の目で見ると、ずいぶんと印象が薄くなる演出になっていると思いました。NHKに、数学科卒のプロデューサ、あるいはディレクターはいるのでしょうか?あるいは番組の演出に気を配ることができる数学関係者はいるのでしょうか?と気になりました。あとは、ペレルマンの論文で使われていた「物理と数学の関係」ついて僕は何も知らなかったので、この番組を見て何か勉強しようと思ったのですが、まったくわかりませんでした。

数学科あるいは、それに近い学科を勉強をして卒業した人にとっては極めて不満が残る番組でした。でも、そうでない一般の方には、実はこれくらいが面白いんだろうなぁとも思いました。ただし、一般視聴者の誤解を避けるための演出には、もう少し気を配っておくべきだったと思います。

それから、せっかく番組を見たのだから…と思ってweb検索してみたところ、本放送のときに番組を見たと推定される人が書いたblogの記事が大量に発見されました。中を見ると案の定、誤解の嵐……かとおもったらもっとひどい状態。発見されたblog記事の半分くらいはアフィリエーターさんが作ったらしい単純なストーリーを書いただけのページでした。中には真剣に番組の感想を書いている人もいるのですが、そういう記事には誤解も多いなぁという印象でした。

僕は、2004年は放送大学の授業、昨年はNIMEの情報倫理ビデオ小品集3にも関わっていたので、科学的な、あるいは技術的な真実を伝えるテレビ番組の制作(特に演出)に関わることの難しさと重要さ(影響の大きさ)について改めて考えさせられました。

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2008年8月 2日 (土)

明るく過ごせたらいいなと思っているのです

やれ「IT系人材」だの「ICT系人材」だの、プログラマが不足しているだの、質の高いプログラマが云々だのという話は、僕らの周りではもう、耳にタコが出来るほど聞いているのですが、atmarkitの、「学生の「人気」「質」低落傾向で大丈夫? 大学情報系学部を調査」という記事を見ていて、なんとなく最近感じてきたことが明確に見えてきたような気がしてきました。それは、

「プログラマ35歳定年説」を思い起こさせるIPAの調査結果の記事にあるような状況の原因を調査しようと、IPAのみなさまは、企業の入口の直前にある大学の出口に注目してアンケートを行なっているが、そういう調査では重要なことは見えてこない。
ということです。この記事で紹介されているIPAの調査内容というのは、大学教員に対して「貴学部・学科の人気は、最近どうですか?」と聞いた結果であり、決して、高校生や中学生に聞いたものではない。一方、大学の情報系学部・学科に入っている学生(高校時代までは『生徒』と呼ばれていた)は、入試に出願する時点でIT(ICT)関係の業種を希望することを決断した人です。その人数が減っていたり、『質』を維持できなくなってきているということの対策を考えるなら、大学の先生にアンケートをとるのではなく、高校で進路相談を担当している先生に実態を聞いて、それを元に大学の入口側に圧力をかけることが重要なのです。

それからもうひとつ気になったことがありました。人材人材というけれど、高校生の時点でIT(ITC)社会の歯車になることを志す人なんて、ほとんどいないはずです。高校生は、いい意味でもっと現実的、あるいは夢をもっています。しかも、今や給与も低い業界だということが2ちゃんねるなどを通して知れ渡っています。だから余計に魅力がないのです。さらに、ここには構造的な問題もあります。IT(ICT)関係の歯車^H^H^H^H人材になれる才能をもった人は、普段は当然2ちゃんねるなどを見ているわけで、だからこそ、絶対に近寄ってこない。逆に、ネットから遠い業界の悪評が2ちゃんねるなどにいくら書かれようとも、その業界に仕事を求めようという人にとっては『インターネットの掲示板』なんて遠い存在なので無関係といえるのです。

暗い話ばかり書いているのもナニなので、明るい話も。Apple から発売された iPhone の日本語入力インターフェイスを使用させて頂く機会がありました。今までとはまったく違う考え方が必要ですが、いちど慣れるとこれはかなり便利だと思いました。どうして ad-es(Windows CE)にはできなくて、 iPhone ならできるのだろうかと思ったのですが、調べてみるとこれは、ある日本人計算機技術者(僕は、その方が Apple に移動される前に、某研究会で見かけたことが何回かあります。)が設計したものだそうです。某氏は Cupertino に招かれ、iPhone の日本語インターフェイスを作ったのです。きっとそれなりのお給料を頂いたに違いないです。

最近の僕は、そういうITの成功話がもっともっと増えてきて、明るく過ごせたらいいなと思っているのです。

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