真実を伝える番組制作の難しさと重要さ
世間では夏休みですが、採点の残り(9月1日報告締切)と原稿執筆で追われています。とはいいつつも、息抜きと勉学を兼ねて、昨年秋(2007年10月22日)に録画したNHK スペシャル「100年の難問はなぜ解けたのか 天才数学者 失踪の謎」を、今頃になって漸く見ました。
以下では、番組の内容に言及するので、まだ見てないけど見る予定がある人は読まないでください。
番組名を読むと「3次元ポアンカレ予想を解決したグリゴリー・ペレルマンが失踪した理由」が解明されそうですが、残念ながら、それは含まれていませんでした。この番組の題名を信じて見ていた僕は、ひどく騙された気分です。NHKの中には、番組の題名が番組の内容を適切に表しているかどうかをチェックする人はいるのでしょうか?
さて、60分もの長い時間をかけて説明されていた内容は、「フィールズ賞ってすごい賞」「ポアンカレ予想を素人でもわかった気分になれるように配慮した説明」「高次元ポアンカレ予想の解決のアイディア」「ペレルマンが位相幾何学ではなく物理と微分幾何学を使ってといた」「ペレルマンは、いまは高校時代の恩師からの面会を拒絶するほど人が変わってしまった」という話でした。数学の前提知識をもたない人に数学の内容を説明する部分のうまさはさすがだと思いました。
でも、あの番組を鵜呑みにした一般視聴者は「位相幾何学は20世紀の新しいキラキラした数学で、微分幾何学は古くさい数学だったが、その古くさい微分幾何を使った方法でポアンカレ予想が解決された。位相幾何学ザマアミロ。」って思ったのではないでしょうか?たしかに、数学の分野には流行る問題、流行らない問題がありますが、未解決問題を解くことだけが数学ではなく、位相幾何学もさまざまな成果を上げてきているわけです。実際そういうことも20秒ほどは説明されていましたが、一般視聴者の目で見ると、ずいぶんと印象が薄くなる演出になっていると思いました。NHKに、数学科卒のプロデューサ、あるいはディレクターはいるのでしょうか?あるいは番組の演出に気を配ることができる数学関係者はいるのでしょうか?と気になりました。あとは、ペレルマンの論文で使われていた「物理と数学の関係」ついて僕は何も知らなかったので、この番組を見て何か勉強しようと思ったのですが、まったくわかりませんでした。
数学科あるいは、それに近い学科を勉強をして卒業した人にとっては極めて不満が残る番組でした。でも、そうでない一般の方には、実はこれくらいが面白いんだろうなぁとも思いました。ただし、一般視聴者の誤解を避けるための演出には、もう少し気を配っておくべきだったと思います。
それから、せっかく番組を見たのだから…と思ってweb検索してみたところ、本放送のときに番組を見たと推定される人が書いたblogの記事が大量に発見されました。中を見ると案の定、誤解の嵐……かとおもったらもっとひどい状態。発見されたblog記事の半分くらいはアフィリエーターさんが作ったらしい単純なストーリーを書いただけのページでした。中には真剣に番組の感想を書いている人もいるのですが、そういう記事には誤解も多いなぁという印象でした。
僕は、2004年は放送大学の授業、昨年はNIMEの情報倫理ビデオ小品集3にも関わっていたので、科学的な、あるいは技術的な真実を伝えるテレビ番組の制作(特に演出)に関わることの難しさと重要さ(影響の大きさ)について改めて考えさせられました。
| 固定リンク
| コメント (2)
| トラックバック (0)
最近のコメント